頭金と繰上げ返済は、同じ日に投じるなら総額が一致する

条件をそろえます。物件の取得に必要な資金が3,000万円、手元資金が600万円、金利0.6%の元利均等・35年・ボーナス返済なし、 2026年10月返済開始。繰上げ返済の手数料は0円とし、諸費用は借入に含めずに考えます。

案Aは600万円を頭金に入れて2,400万円を借りる方法、案Bは3,000万円を借りてから600万円を繰上げ返済に回す方法です。 案Bは毎月の負担を案Aとそろえるため、返済額軽減型を使います(期間短縮型との違いは後述します)。 投じた現金も支出なので、頭金・繰上げ返済額・返済総額を合計した「現金の総支出」で並べます。

実行時期実行後の毎月返済現金の総支出案Aとの差
A 頭金借入時63,366円32,613,925円基準
B 繰上げ返済 借入直後 63,366円 32,613,925円 ±0円
B 繰上げ返済 1年後 62,948円 32,633,129円 +19,204円
B 繰上げ返済 3年後 62,031円 32,671,525円 +57,600円
B 繰上げ返済 5年後 60,992円 32,709,752円 +95,827円
B 繰上げ返済 10年後 57,666円 32,804,680円 +190,755円
B 繰上げ返済 13年後 54,942円 32,861,230円 +247,305円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。繰上げ返済は返済額軽減型、手数料0円として計算しています。

借入直後に実行した場合、差は0円です。3,000万円を借りて即座に600万円を返済額軽減型で返すと、 残債も毎月返済額も2,400万円を借りた場合とそろうため、金額としては同じものになります。 差が出るのはそこから先で、1年待てば+19,204円、5年で+95,827円、 13年待つと+247,305円です。待った期間だけ600万円分の利息を払っている、という単純な話です。

言い換えると、頭金と繰上げ返済の優劣は「どちらの方法か」ではなく「いつ投じるか」で決まります。 13年待っても差は247,305円で、投じる600万円に対して4.1%にとどまります。 金利0.6%の水準では、待つことの費用そのものは大きくありません。

住宅ローン控除を差し引くと順番が入れ替わる

ここまでは控除を無視した比較です。住宅ローン控除は年末残高をもとに計算されるため、 残債が大きいほど控除額も大きくなります。頭金を入れて残債を減らすと、その分だけ控除も減ります。 国税庁は控除額について「住宅ローン等の年末残高の合計額(住宅の取得等の対価の額……が住宅ローン等の年末残高の合計額よりも少ないときは、その取得等の対価の額または費用の額)」を基に算出すると案内しています (国税庁 No.1211-1)。

控除率0.7%、控除期間13年、借入限度額3,000万円、年収600万円という前提で、 先ほどの表に控除額を足したものが次の表です。

実行時期現金の総支出控除の合計控除を引いた実質案Aとの差
A 頭金借入時32,613,925円1,824,406円30,789,519円基準
B 繰上げ返済 借入直後 32,613,925円 1,824,406円 30,789,519円 ±0円
B 繰上げ返済 1年後 32,633,129円 1,855,179円 30,777,950円 −11,569円
B 繰上げ返済 3年後 32,671,525円 1,918,176円 30,753,349円 −36,170円
B 繰上げ返済 5年後 32,709,752円 1,983,442円 30,726,310円 −63,209円
B 繰上げ返済 10年後 32,804,680円 2,160,378円 30,644,302円 −145,217円
B 繰上げ返済 13年後 32,861,230円 2,280,507円 30,580,723円 −208,796円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。控除率・控除期間・借入限度額は data/loan-config.json の値を使っています。

控除を差し引くと、名目とは逆向きの結果になります。5年待った場合、総支出は95,827円増えるのに、 控除は159,036円多く受け取れるため、実質では63,209円少なくなります。 13年待つと差は208,796円まで広がります。 控除率0.7%が適用金利0.6%を上回っている間は、残債を大きいまま持っている方が受け取りが多くなるためです。

ただし、これは金利と控除率の関係が逆転すれば消える結果です。適用金利が控除率を超えていれば、 待つほど不利になります。控除期間中の繰上げ返済では、この分かれ目そのものを扱っています。

頭金の額を変えると差はどう動くか

投じる金額を300万円から1,200万円まで変え、実行時期を5年後に固定して比べます。 金額が大きいほど、名目の差も控除の差も比例して大きくなります。

投じる金額A 頭金の毎月B 5年後実行の毎月名目の差控除の差実質の差
300万円 71,287円 70,100円 +47,921円 +79,517円 −31,596円
600万円 63,366円 60,992円 +95,827円 +159,036円 −63,209円
900万円 55,446円 51,885円 +143,761円 +238,555円 −94,794円
1,200万円 47,525円 42,777円 +191,680円 +318,071円 −126,391円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。Bは5年後に返済額軽減型で繰上げ返済した場合です。

投じる金額を4倍にしても、実質の差は31,596円から126,391円へと、 おおむね金額に比例して動くだけです。頭金を厚くするか薄くするかは、この差よりも 毎月返済額(71,287円から47,525円まで動きます)と、手元にいくら残るかで考える方が実際的です。

期間短縮型を選ぶと比較の土俵が変わる

ここまでBは返済額軽減型で計算しました。期間短縮型を選ぶと、毎月返済額は3,000万円を借りたときの79,208円のまま据え置かれ、 返済期間だけが縮みます。同じ600万円を5年後に投じた場合の3案を並べます。

実行後の毎月返済返済回数現金の総支出控除の合計控除を引いた実質
A 頭金63,366円420回32,613,925円1,824,406円30,789,519円
B 返済額軽減型(5年後)60,992円420回32,709,752円1,983,442円30,726,310円
C 期間短縮型(5年後)79,208円332回32,240,842円1,936,831円30,304,011円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。手数料0円、控除の前提は前の表と同じです。

期間短縮型は総支出も実質も3案で最も少なくなりますが、これは有利さの証明にはなりません。 毎月79,208円を払い続ける案と、60,992円に下げる案を同じ表に並べているためです。 期間短縮型は7年4ヶ月早く完済しますが、その間の毎月の負担は18,216円高いままです。 毎月の支払いをそろえて比べたいなら返済額軽減型、完済を早めたいなら期間短縮型、と目的で選ぶ方が判断がぶれません。

なお、期間短縮型では返済期間そのものが縮みます。国税庁は控除の要件として、繰上げ返済後も 「当初の契約により定められていた最初に償還した月から、その短くなった償還期間の最終の償還月までの期間が10年以上」であることを求めています (国税庁 質疑応答事例)。 この試算では短縮後も27年8ヶ月あるため要件には触れませんが、残り期間が短い段階で大きく縮める場合は確認が要ります。

変動金利が上がった場合、手元に残す判断はいくらの費用か

ここまでは600万円を最終的に返済へ投じる前提でした。もう一つの選択肢は、投じずに手元へ置いたまま返済を続けることです。 この場合、600万円分の借入を35年間持ち続けることになります。金利が2026年10月から10年かけて一定ペースで上がる仮定を当てて、 頭金を入れた場合と比べます。

上昇幅A 頭金の改定後返済額B 手元に残す場合の改定後返済額手元に残す場合の追加負担未払利息
据え置き 63,367円 79,209円 653,526円 0円
+0.5ポイント 66,133円 82,666円 1,088,925円 0円
+1.0ポイント 68,987円 86,234円 1,550,107円 0円
+2.0ポイント 74,962円 93,703円 2,552,865円 0円
+3.0ポイント 79,207円(上限) 99,010円(上限) 3,700,084円 0円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。1回目の返済額改定は両案とも2031年9月で、5年ルール・125%ルールがある前提で計算しています。

600万円を投じずに持ち続けた場合の追加負担は、金利が動かなくても653,526円、 3.0ポイント上がると3,700,084円です。 上昇局面ほど「借りたままにしておく」ことの費用は大きくなります。 ただしこれは35年間まったく投じなかった場合の数字で、途中で繰上げ返済に回すなら差は最初の表の範囲に収まります。

125%ルールの上限に当たるのは +3.0ポイントのケースだけで、上限が無ければ81,301円になるところが79,207円に抑えられます。 未払利息はこの5ケースのいずれでも発生していません。 抑えられた分は消えるのではなく、元金の減りが遅れる形で後ろに回ります。

頭金を入れても、未払利息が出る金利は動かない

頭金を入れると残債が小さくなるので、金利上昇に強くなるように見えます。ところが未払利息が発生する金利の水位は、 頭金を入れた場合が3.17%、入れなかった場合が3.17%で、実質的に同じです。

未払利息は「残債×金利÷12」が毎月返済額を超えたときに出ます。頭金を入れると残債も毎月返済額も同じ割合で小さくなるため、 両者の比は変わりません。水位を動かすのは金利と残り期間であって、借入額ではない、ということです。 頭金で小さくできるのは金額であって、上昇に対する耐性の比率ではありません。 水位そのものの考え方は金利は何%まで耐えられるかで扱っています。

年収によって、控除で逆転するかどうかが変わる

前半で「控除を差し引くと待った方が少ない」という結果になりましたが、これは控除を満額受け取れる場合の話です。 控除額は所得税額と住民税からの控除上限で頭打ちになるため、年収が低いと残債を大きく持っていても受け取りが増えません。 頭金と、控除の対象年がすべて終わったあとにあたる13年後に繰上げ返済する場合を、年収別に比べます。

年収控除の天井A 頭金の控除合計B 13年後実行の控除合計控除の差実質の差
400万円 172,263円 1,824,406円 2,140,689円 +316,283円 −68,978円
500万円 235,845円 1,824,406円 2,280,507円 +456,101円 −208,796円
600万円 302,210円 1,824,406円 2,280,507円 +456,101円 −208,796円
800万円 563,586円 1,824,406円 2,280,507円 +456,101円 −208,796円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。所得税・住民税は年収からの概算で、扶養や他の控除は考慮していません。

年収400万円では控除の天井が172,263円で、残債を大きく持っていても超えた分は受け取れません。 そのため控除の差は316,283円にとどまり、実質の差も68,978円まで縮みます。 年収500万円以上では天井に当たらなくなり、控除の差は456,101円で頭打ちになります。 控除の実際の受取額そのものは住宅ローン控除はいくら戻るのかで扱っています。

どの数字を見て決めるか

この試算の範囲では、頭金と繰上げ返済の差は600万円に対して最大でも4.1%です。 金額の差だけで決めようとすると、どちらもほとんど同じという結論になります。実際に選択を分けるのは、次の3点です。

1つ目は、手元資金をいつまで自由に使える状態にしておきたいか。頭金として入れた資金は、 あとから引き出すことができません。借りてから繰上げ返済に回す方法なら、投じる時期を自分で選べます。 その柔軟性の対価が、この試算での95,827円(5年待った場合)にあたります。

2つ目は、控除の受取額です。控除率が適用金利を上回っている間は、残債を大きいまま持つ方が受け取りは多くなります。 ただし年収によって天井に当たるため、自分の所得税額と住民税からの控除上限を確認しないと、この利点があるかどうかは分かりません。

3つ目は、借入額に比例して増える費用です。この試算では手数料を0円としていますが、 事務手数料が借入額に対する定率の契約では、借入額を大きくした分だけ費用が増えます。その差は表の金額を上回ることもあります。 契約先の手数料の方式を確認してから比べてください。

確認する順番

最初に、契約候補の事務手数料が定率か定額かを確認します。定率なら、頭金を入れて借入額を減らすこと自体に費用の削減効果があります。 次に、繰上げ返済の手数料と最低金額、受付方法を確認します。窓口のみ・1回あたり手数料ありという条件だと、 こまめに投じる前提が崩れます。

そのうえで、自分の年収での控除の天井を確かめます。天井に当たるなら、残債を大きく持っておく利点は表よりも小さくなります。 最後に、手元にいくら残すかを決めます。頭金でも繰上げ返済でも、投じた現金は戻ってきません。 生活防衛資金を確保したうえで、残った分をどう使うかという順番になります。

よくある質問

頭金を入れないと審査に通りにくくなりますか

審査の基準は金融機関により異なり、本ページでは扱っていません。ここで比較しているのは、 同じ条件で借りられるとした場合の支払額の違いだけです。実際の借入条件は金融機関にご確認ください。

頭金を入れずに借りて、繰上げ返済しなかった場合はどうなりますか

600万円分の借入を返済期間の最後まで持ち続けることになります。この試算では、金利が動かない場合で653,526円、 3.0ポイント上がる仮定では3,700,084円の追加負担になります。 手元に置いておく判断そのものが悪いという意味ではなく、その保有にはこれだけの費用がかかる、という見方になります。

繰上げ返済は返済額軽減型と期間短縮型のどちらを選べばよいですか

目的が違うため、金額だけでは決まりません。毎月の負担を下げたいなら返済額軽減型、完済を早めたいなら期間短縮型です。 この試算では期間短縮型の方が総支出は少なくなりますが、毎月18,216円高い支払いを続けた結果でもあります。 2方式の違いは期間短縮型と返済額軽減型どっちで詳しく扱っています。

まとめ

  • 同じ日に投じるなら、頭金と返済額軽減型の繰上げ返済の総支出の差は0円
  • 5年待つと総支出は95,827円増えるが、控除を差し引くと逆に63,209円少なくなる
  • ただし年収400万円では控除が天井に当たり、実質の差は68,978円まで縮む
  • 頭金を入れても未払利息が出る金利は3.17%のままで、上昇への耐性の比率は変わらない
  • 金額差より、手元資金の柔軟性と、借入額に比例する手数料の方が効くことがある