繰上げ返済の利回りは年0.6%相当だった

前提は当初3,000万円・35年・金利0.6%・元利均等で、 返済開始から5年が経った時点(残債2,609万円、残り30年、 毎月返済79,208円)で期間短縮型の繰上げ返済をする想定です。 繰上げ返済は「いま現金を出して、将来出ていく返済を消す」取引なので、 出ていく現金と浮く返済を時点ごとに並べれば、年あたりの利回りに相当する値が求められます。

繰上げ返済額短縮される期間減る利息投じた額に対する割合年利回り相当
100万円 1年3ヶ月 192,939円 19.3% 0.6%
200万円 2年6ヶ月 376,980円 18.8% 0.6%
300万円 3年8ヶ月 552,240円 18.4% 0.6%
500万円 6年2ヶ月 876,917円 17.5% 0.6%

このサイトの計算エンジンによる算出値です。手数料は0円、繰上げ返済後も毎月返済額は79,208円のまま(期間短縮型)としています。

300万円を投じると利息は552,240円減り、完済は3年8ヶ月早まります。 投じた額に対する割合は18.4%ですが、これは残り30年の全期間を通じて効いて、 完済時点でようやく出そろう数字です。期間短縮型では、実際に支払いが消えるのは短縮された末尾の3年8ヶ月分です。 年あたりに直すと0.6%相当で、金額を100万円から500万円まで動かしても、この水準はほとんど変わりません。

「削減額÷投じた額」が大きく見える理由

繰上げ返済の効果は「300万円で552,240円の利息が消えた」という形で示されることが多く、 この形だと18.4%という大きな数字になります。ただしこの割合には、 回収に何年かかるかという情報が入っていません。同じ18.4%でも、 1年で回収するのと30年かけて回収するのとでは意味が違います。

運用の利回りは、ほぼ例外なく「年あたり何%」で表示されます。 したがって繰上げ返済と運用を並べるなら、繰上げ返済の側も年あたりに直す必要があります。 直したうえで見ると、上の表の18.4%は年0.6%相当です。 比較の土俵に乗せた時点で、印象はかなり変わります。

実行時期を変えても年利回り相当は動かない

同じ300万円を、返済開始から何年後に投じるかで比べます。 別記事の繰上げ返済は早いほど得かで見たとおり、 減る利息の絶対額は早いほど大きくなります。では年利回り相当はどう動くでしょうか。

実行時期その時点の残債短縮される期間減る利息投じた額に対する割合年利回り相当
1年後 2,923万円 3年9ヶ月 637,521円 21.3% 0.6%
5年後 2,609万円 3年8ヶ月 552,240円 18.4% 0.6%
10年後 2,206万円 3年7ヶ月 448,410円 14.9% 0.6%
15年後 1,791万円 3年6ヶ月 347,583円 11.6% 0.6%
20年後 1,363万円 3年5ヶ月 249,694円 8.3% 0.6%

このサイトの計算エンジンによる算出値です。いずれも期間短縮型で、繰上げ返済額は300万円に固定しています。

減る利息は637,521円から249,694円まで、 投じた額に対する割合も21.3%から8.3%まで大きく変わります。 それでも年利回り相当は0.6%から動きません。 早く実行した方が削減額が大きいのは、利回りが高いからではなく、 同じ利回りが効く期間が長いからです。 「早いほど得」と「利回りは同じ」は矛盾せず、見ている軸が違うだけです。

適用金利が高いほど利回りも高くなる

次に、適用金利だけを変えて同じ計算をします。残債はその金利で5年返済した後の額なので、 金利ごとに少しずつ異なります。

適用金利その時点の残債短縮される期間減る利息年利回り相当
0.6% 2,609万円 3年8ヶ月 552,240円 0.6%
1% 2,633万円 3年10ヶ月 972,123円 1%
1.5% 2,662万円 4年1ヶ月 1,562,013円 1.5%
2% 2,689万円 4年4ヶ月 2,231,955円 2%
2.5% 2,714万円 4年7ヶ月 2,990,544円 2.5%

このサイトの計算エンジンによる算出値です。返済開始から5年後に300万円を期間短縮型で繰上げ返済した場合です。

年利回り相当は、適用金利とほぼ同じ値に並びます。 繰上げ返済は「自分が払っている金利で運用するのと同じ」という言われ方をしますが、 このサイトの計算エンジンで出しても同じ結果になりました。 変動金利で借りている場合、この利回りは適用金利と一緒に動きます。 金利が上がった局面では繰上げ返済の利回り相当も上がるため、 金利1%上昇の総額差と合わせて見ると、 資金の置き場所を考え直す材料になります。

期間短縮型と返済額軽減型で利回りは変わるか

同じ300万円を、期間短縮型と返済額軽減型のそれぞれで投じた場合を比べます。 減る利息の額はよく比較されますが、年利回り相当まで並べたものは多くありません。

方式減る利息短縮される期間毎月返済の変化年利回り相当
期間短縮型 552,240円 3年8ヶ月 変わらない 0.6%
返済額軽減型 278,823円 変わらない 9,108円下がる 0.6%

このサイトの計算エンジンによる算出値です。どちらも返済開始から5年後に300万円を投じた場合です。

減る利息は期間短縮型が552,240円、返済額軽減型が278,823円で、 金額としては期間短縮型の方が大きくなります。それでも年利回り相当は同じ0.6%です。 返済額軽減型は毎月9,108円という形で早い時点から資金が戻ってくるため、 1円あたりの拘束期間が短く、総額が小さくても効率は同じになります。 どちらを選ぶかは利回りではなく、毎月の余裕を取るか、完済時期を早めるかという目的で決まります。 方式そのものの違いは期間短縮型と返済額軽減型どっち繰上げ返済で月額を下げるで扱っています。

同じ資金を運用した場合と並ぶのは年0.6%

ここまでの値を使って、300万円を繰上げ返済に回す場合と、 手元に残して運用した場合を、もとの完済時点(30年後)の資産額で比べます。 運用の利回りは予測できないため、いくつかの水準を仮定として置きます。 繰上げ返済側は、短縮で浮いた毎月返済も同じ利回りで回した前提です。

仮定した運用利回り(年)300万円の30年後繰上げ返済側の有利額どちらが多いか
0% 3,000,000円 +552,240円 繰上げ返済
0.3% 3,282,486円 +289,294円 繰上げ返済
0.6% 3,591,491円 −31円 ほぼ同じ
1% 4,049,071円 −431,152円 運用
2% 5,463,627円 −1,778,443円 運用
3% 7,370,527円 −3,616,449円 運用

このサイトの計算エンジンによる算出値です。運用益への課税、売買手数料、繰上げ返済手数料はいずれも考慮していません。運用利回りは予測ではなく仮定です。

分かれ目は年0.6%で、これは適用金利0.6%とほぼ一致します。 仮定した利回りがこれを下回れば繰上げ返済側が多く残り、上回れば運用側が多く残る、という関係です。 ただしこの表は、仮定した利回りが30年のあいだ毎月確実に続くものとして計算しています。 繰上げ返済の側は適用金利が決まっていて結果が動きませんが、運用の側は結果が振れます。 同じ数字に見えても、その確からしさは同じではありません。

住宅ローン控除が残っている間は利回りが下がる

繰上げ返済で年末残高が減ると、住宅ローン控除の額も減ります。 控除期間中の繰上げ返済は、利息の削減と控除の減少が同時に起きるため、 利回り相当はその分下がります。ここでは 2025年入居・省エネ基準適合住宅(控除率0.7%・借入限度額3,000万円・13年)、 年収600万円を仮定します。制度値は data/loan-config.json の値を使っています。 この年収では控除の上限が302,210円となり、今回の残高水準では頭打ちにはなりません。

控除の残存年数減る控除額の合計利息削減から差し引いた純額年利回り相当
残っていない 552,240円 0.6%
3年 63,761円 488,479円 0.53%
5年 106,911円 445,329円 0.48%
8年 172,615円 379,625円 0.4%

このサイトの計算エンジンによる算出値です。控除率・借入限度額・控除期間は data/loan-config.json を参照し、所得税額と住民税からの控除上限は年収から概算しています。

控除が残り8年ある場合、失う控除は172,615円で、 年利回り相当は0.6%から0.4%まで下がります。 控除率0.7%は適用金利0.6%より高いため、 控除が残っている年については、減る控除の方が減る利息より大きくなります。 それでも利回りがマイナスにならないのは、利息の削減が完済まで続くのに対し、 控除の減少は残存年数のあいだだけだからです。 この論点は控除中の繰上げ返済は損かで別の角度から扱っています。

なお期間短縮型では、繰上げ返済の結果として返済期間が短くなります。 国税庁は、繰上げ返済により対象となる返済期間が10年未満になった場合について、 その年から住宅ローン控除を受けられなくなるとしています (国税庁「繰上返済等をした場合の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除」)。 今回のケースでは繰上げ返済後の残り期間が26年4ヶ月あるため、この条件には触れていません。 完済間際に大きな繰上げ返済をする場合は、残り期間が10年を切らないかを先に確認してください。

確認する順序

最初に、返済予定表で残債・適用金利・残り期間を確認します。 この3つが決まれば、繰上げ返済の利回り相当はほぼ適用金利に決まります。 上の表のとおり、金額や時期で大きく動く数字ではないので、 「いくら投じるか」より「そもそも適用金利がいくらか」の方が結論を左右します。

次に、手元資金のうちいくらまでなら動かせるかを決めます。 繰上げ返済に回した資金は、原則として引き出せません。 生活防衛資金や近い将来の支出予定を先に取り分けたうえで、余った分を対象にします。 必要額の考え方は生活防衛資金はいくら残すかで計算しています。

最後に、繰上げ返済の手数料と最低金額を金融機関に確認します。 手数料がかかる場合は投じる額が実質的に増えるため、利回り相当はその分下がります。 少額を何度も入れるほど手数料の影響が大きくなる点は 繰上げ返済の手数料は何円まで見合うかで扱っています。

よくある質問

削減額が投じた額の18.4%なのに、利回りが年0.6%なのはなぜですか

18.4%は30年かけて積み上がる合計だからです。 年あたりに直すと0.6%相当になります。 運用の利回りは年あたりで表示されるため、比べるときは単位を揃える必要があります。

繰上げ返済の手数料がかかる場合、利回りはどう変わりますか

手数料は投じる額に上乗せされるため、利回り相当は下がります。 本ページは手数料0円で計算しています。金額や無料の条件は金融機関により異なるため、 契約先の案内で確認したうえで、投じる額に手数料を足して計算し直してください。

変動金利の場合はどう考えればよいですか

適用金利が上がれば、繰上げ返済の利回り相当も上がります。 0.6%のときは0.6%、 2.5%のときは2.5%という関係です。 ただし本ページは金利を予測していません。 いまの適用金利で一度計算し、金利が変わったときに計算し直す使い方を想定しています。

まとめ

  • 残債2,609万円・残り30年で300万円を期間短縮型で繰上げ返済すると、利息は552,240円減る
  • 投じた額に対する割合は18.4%だが、年あたりに直すと0.6%相当
  • 金額・実行時期・方式を変えても年利回り相当は動かず、適用金利とほぼ同じ水準になる
  • 運用と並ぶのは年0.6%。控除が残り8年あると利回り相当は0.4%まで下がる

繰上げ返済は、利回りの高さで選ぶ手段というより、 適用金利と同じ利回りが、振れずに確定するという性質の使い道です。 運用と比べるときは、数字の大小だけでなく、その数字が動くかどうかも合わせて見てください。 本ページは特定の運用商品や金融機関を勧めるものではなく、 個別の税務や投資の判断については専門家にご確認ください。