結論|どちらが有利かは「何を減らしたいか」で逆になる
先に結論を書きます。残債2,600万円・残り30年・現在金利0.6%で、 次回の返済額改定が2031年9月に来る人が、300万円を繰上げ返済する場合です。 金利は3年かけて+1%まで上がる想定を置きました。
総支出を減らしたいなら改定の直後で、差は69万円です。 毎月の返済額を下げたいなら改定の直前で、改定後の毎月返済は12,106円低くなります。 どちらかが一方的に優れているわけではなく、優先する数字によって答えが入れ替わります。
この差が生まれる理由は、5年ごとの改定で返済額が再計算される点にあります。 適用金利は通常半年ごとに見直されるのに対し、元利均等返済の返済額の見直しは通常5年ごとです (全国銀行協会「変動金利住宅ローンの未払利息とは?」)。 改定の前に残債を減らしておくと、その小さくなった残債を前提に返済額が計算され直します。
基準ケース|直前・直後・繰上げなしの比較
期間短縮型で300万円を入れた場合です。現在の毎月返済は78,935円、 繰上げ返済をしなければ2031年9月の改定で92,160円になります。
| 繰上げ返済 | 実行時期 | 改定後の毎月返済 | 完済 | 総利息 | 総支出 |
|---|---|---|---|---|---|
| 繰上げ返済なし | — | 92,160円 | 2056年9月 | 640万円 | 3,240万円 |
| 改定の直前に300万円 | 2031年8月 | 80,054円 | 2056年9月 | 575万円 | 3,175万円 |
| 改定の直後に300万円 | 2031年9月 | 92,160円 | 2052年10月 | 506万円 | 3,106万円 |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。総支出は毎月の返済額の合計に繰上げ返済の元本300万円を加えた金額で、繰上げ返済なしの行だけはその300万円を手元に残しています。
直前に入れた場合、改定後の毎月返済は80,054円に収まり、 繰上げ返済なしの92,160円より12,106円低くなりました。 一方で完済は2056年9月のままで、当初の返済期間と変わりません。
直後に入れた場合、改定後の毎月返済は92,160円で変わりませんが、 完済が2052年10月へ3年11ヶ月早まりました。 繰上げ返済なしと比べた総利息の削減額は、直前が644,132円、直後が1,337,440円です。
基準ケースで期間が縮まなかった理由
期間短縮型は「繰上げ後の返済額を変えずに残りの返済期間を短くする」方式です (全国銀行協会「繰上返済は有利?手数料は?住宅ローンの繰上返済」)。 ところが今回の計算では、直前に入れたときの短縮月数は0ヶ月でした。
理由は、据え置かれている返済額78,935円が、上昇後の金利1.6%では 残りの期間を払い切るのに足りない水準になっているためです。 返済額を据え置いたまま期間を縮める計算が成立せず、残債が減った効果は期間ではなく、 続く改定での返済額の下がり方として現れます。
据え置かれた返済額と、上がった金利で必要になる返済額との開きが大きいほど、 期間短縮型の効果は期間ではなく返済額の側に出ます。 後述の上昇幅別の表のとおり、上昇が+0.5%にとどまる場合は期間も21ヶ月縮んでおり、 縮むかどうかは上昇幅次第です。 この挙動は5年ルールで元金の減りが遅くなる仕組みの裏返しです。
方式別|直前では期間短縮型と軽減型の差が消える
期間短縮型と返済額軽減型を、直前・直後それぞれで計算し直した結果です。
| 組み合わせ | 改定後の毎月返済 | 完済 | 総利息 | 総支出 |
|---|---|---|---|---|
| 直前 × 期間短縮型 | 80,054円 | 2056年9月 | 575万円 | 3,175万円 |
| 直前 × 返済額軽減型 | 80,054円 | 2056年9月 | 575万円 | 3,175万円 |
| 直後 × 期間短縮型 | 92,160円 | 2052年10月 | 506万円 | 3,106万円 |
| 直後 × 返済額軽減型 | 80,021円 | 2056年9月 | 576万円 | 3,176万円 |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。4通りすべて同じ金利シナリオ、同じ300万円で計算しています。
直前に入れた2通りの総支出の差は0円で、方式の指定が結果に効いていません。 改定で返済額が残債と残り期間から計算し直されるため、 どちらを選んでも改定後は同じ返済額、同じ完済時期に収束します。
これに対して直後に入れた2通りの差は70万円です。 改定で返済額が92,160円に決まった後なら、 その返済額を維持して期間を縮めるか、期間を維持して返済額を下げるかの選択が残ります。 一般には利息の軽減効果は期間短縮型の方が大きいとされますが、 この計算ではその差が出るのは改定の後に入れた場合だけでした。 方式の違いそのものは期間短縮型と返済額軽減型の比較で扱っています。
上昇幅別|差はどこまで広がるか
金利の到達点を変えて、同じ比較を繰り返しました。いずれも3年かけて上昇し、 期間短縮型で300万円を入れた場合です。125%ルールの上限は98,668円です。
| 上昇幅 | 直前に入れた改定後の返済額 | 直後に入れた改定後の返済額 | 125%上限で先送りされる額 | 総支出の差 |
|---|---|---|---|---|
| +0.5% | 78,758円 | 85,349円 | 上限に当たらない | 23万円 |
| +1% | 80,054円 | 92,160円 | 上限に当たらない | 69万円 |
| +1.5% | 86,552円 | 98,668円 | 直前0円/直後714円 | 94万円 |
| +2% | 93,449円 | 98,668円 | 直前0円/直後8,359円 | 56万円 |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。総支出の差は、直前に入れた場合から直後に入れた場合を引いた金額です。
+0.5%の場合は、直前に入れた改定後の返済額が78,758円で、 現在の78,935円を下回りました。上昇幅が小さければ、 改定前の繰上げ返済が返済額の引き下げにつながることもあります。 このケースでは期間も21ヶ月縮んでいます。
+1.5%と+2%では、直後に入れた場合だけ125%ルールの上限に当たりました。 直前に入れると残債が減った状態で再計算されるため、上限に届く前の金額に収まり、 先送りされる額は0円になります。改定の前に残債を減らしておくと、 上限で頭を押さえられる状態そのものを避けられる場合があります。
未払利息の危険水位はどう動くか
危険水位は、毎月の返済額が利息に届かなくなる金利の水準です。 毎月支払うべき利息が返済額を上回ると未払利息が発生し、別途支払わない限り返済終了時まで蓄積します (前掲・全国銀行協会)。改定の翌月時点で比べると次の通りです。
| 繰上げ返済 | 残債 | 毎月返済 | 危険水位 |
|---|---|---|---|
| 繰上げ返済なし | 2,271万円 | 92,160円 | 4.87% |
| 直前(期間短縮型・返済額軽減型とも) | 1,973万円 | 80,054円 | 4.87% |
| 直後 × 期間短縮型 | 1,971万円 | 92,160円 | 5.61% |
| 直後 × 返済額軽減型 | 1,972万円 | 80,021円 | 4.87% |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。危険水位は、その時点の残債と毎月返済額から逆算した年利です。
危険水位が上がったのは、直後に期間短縮型を選んだ行だけでした。 残債が減っても改定で返済額が下がってしまう組み合わせでは、残債と返済額が同じ比率で小さくなるため、 水位は4.87%から動きません。 返済額を92,160円に据え置いたまま残債だけ減らしたときに、 水位が5.61%へ上がります。
なお、このシナリオの到達金利は1.6%で、いずれの行でも未払利息は発生していません。 水位を上げる意味は、想定より速く金利が上がった場合の余裕を広げることにあります。
判断基準|どの数字を優先するか
毎月の返済額に余裕がなく、改定で13,225円増えるのが苦しいなら、改定の直前が噛み合います。 改定後の返済額が80,054円に収まり、増加幅は1,119円に縮みます。 ただし完済時期は変わらず、総支出は直後より69万円多くなります。
増えた返済額を払えるのであれば、改定の直後が総支出では少なくなります。 92,160円を払い続ける代わりに完済が3年11ヶ月早まり、 危険水位も5.61%まで上がります。 金利上昇への耐性を優先する場合は、この組み合わせが数字の上では厚くなります。
どちらにも当てはまらないのは、手元資金に余裕がない場合です。 300万円を入れると、その分の現金は戻りません。 改定で返済額が上がった直後に手元が薄くなると、金利上昇と資金不足が同時に来ます。 先に手元に残す資金を決めてから、残りで時期を選ぶ順序になります。
確認手順
最初に返済予定表で、次回の返済額改定がいつかを確認します。改定の周期と基準日は契約で決まっており、 借入月とも金利の見直し月とも一致しないことがあります。 返済予定表のどこを見るかを先に押さえると、起点が決まります。
次に、繰上げ返済の下限額、手数料、受付から反映までの日数を契約先に確認します。 金融機関によって繰上返済額に下限(10万円以上や100万円以上など)があり、 手数料も1回あたり無料から数万円までの差があります(前掲・全国銀行協会)。 改定の直前を狙う場合、反映が改定月に食い込むと前提が崩れます。
最後に、残債・残り期間・現在金利・次回改定時期を入れて、直前と直後の両方で計算します。 上昇幅は一点に決めず、+0.5%から+2%まで振って、 どの水準で結論が入れ替わるかを見ておくと判断が安定します。
「改定の直後」は改定月の返済後を指す
この記事では、直前を改定月の1ヶ月前(2031年8月)、 直後を改定月の返済後(2031年9月)として計算しました。 1ヶ月しか違わないのに結果が分かれるのは、その間に返済額の再計算が挟まるからです。
逆に言えば、改定から遠い時期に入れるなら、この前後関係は問題になりません。 改定の2年前に入れた繰上げ返済は、残債が減った状態で2年後の改定を迎えるため、 ここでいう「直前」と同じ経路をたどります。前後で悩む必要があるのは、 改定が目前に迫っているときだけです。
金利上昇そのものが改定の前に来るか後に来るかでも総額は変わります。 そちらは上昇時期と改定時期のずれで扱っています。 備えとして繰上げ返済がどこまで効くかは金利上昇への備えとしての繰上げ返済にまとめました。
よくある質問
改定の直前に入れるなら、方式はどちらを選んでもよいのですか
今回の計算では、直前に入れた場合の総支出の差は0円でした。 改定で返済額が再計算されるため、どちらでも同じ経路に収束しています。 ただし改定の基準日や再計算の扱いは契約によって異なるため、 方式の指定が結果にどう反映されるかは契約先に確認してください。
改定の直前を狙って入れたいのですが、いつまでに手続きすればよいですか
受付から反映までの期間は金融機関や手続き方法によって異なるため、ここでは示せません。 契約先の公式案内で、受付締切と反映日を確認したうえで時期を決めてください。 反映が改定月に入ると、この記事でいう「直後」に近い結果になります。
繰上げ返済をすると、次の改定がなくなったり前倒しになったりしますか
この記事の計算では、改定の周期は繰上げ返済によって変わらないものとして扱っています。 実際の扱いは契約で決まるため、周期の起点が動くかどうかは契約先に確認が必要です。 起点が動く場合の影響は改定の起点が動くとどうなるかと同じ構図になります。
まとめ
- 総支出では改定の直後が69万円少ない
- 改定後の毎月返済では改定の直前が12,106円低い
- 直前では方式の差が0円、直後では70万円になる
- 危険水位が5.61%へ上がるのは直後に期間短縮型を選んだ場合だけ