繰上げ返済で控除が切れる条件
期間短縮型の繰上げ返済をすると返済期間が縮みます。この結果、返済期間が10年未満になると所得税の住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の対象外になります。住宅金融支援機構は、一部繰上返済の結果として返済期間が10年未満になった場合、控除の対象外になり、必要な融資額残高証明書も送付されないと案内しています。
ここで多く誤解されるのが「10年」の数え方です。国税庁は、償還期間が10年以上かどうかは借入金の債務を負っている期間ではなく、最初の返済等の時から返済等が終了する時までの期間で判定するとしています。つまり判定されるのは残り期間ではなく、初回返済日から短縮後の最終回返済日までの通算期間です。
この違いは結論を大きく変えます。すでに何年か返済してきた人は、その経過分が通算期間に入るため、残り期間が10年を切っても打ち切りにはなりません。以下ではこの通算期間の基準で、打ち切りに当たる繰上げ額を実際に計算します。
基準ケース|3,000万円・35年を5年返済した時点
当初借入3,000万円・35年・金利0.6%・元利均等で5年返済した時点を基準にします。毎月返済は79,208円、残債は2,609万円、残り期間は30年です。初回返済から60回分が済んでいるため、通算10年を切るには残り期間を5年未満まで縮める必要があります。
| 繰上げ額 | 繰上げ後の残り期間 | 初回返済からの通算 | 控除の対象 | 減る利息 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 23年10ヶ月 | 28年10ヶ月 | 対象のまま | 88万円 |
| 1,000万円 | 17年11ヶ月 | 22年11ヶ月 | 対象のまま | 154万円 |
| 1,500万円 | 12年2ヶ月 | 17年2ヶ月 | 対象のまま | 201万円 |
| 2,000万円 | 6年7ヶ月 | 11年7ヶ月 | 対象のまま | 230万円 |
| 2,149万円 | 4年11ヶ月 | 9年11ヶ月 | 対象外 | 236万円 |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。期間短縮型・元利均等で、毎月返済額を79,208円に据え置いて残り回数を解いています。
2,000万円を繰上げても通算は11年7ヶ月で、まだ10年を超えています。通算10年を切るのは2,149万円からで、これは残債2,609万円の82.4%にあたります。35年で借りて5年しか経っていない人が、この額を一度に繰上げる場面は多くありません。
仮にこの額を繰上げた場合、減る利息は236万円です。一方で控除の残り8年分(6年目から13年目)は126万円なので、この条件では利息の減少が控除の減少を110万円上回ります。
「10年」の起点は初回返済日
国税庁のタックスアンサーは、控除の対象となる住宅ローンの要件を「償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済されるもの」とし、注書きで「償還期間や賦払期間の10年以上の期間とは、借入金等の債務を負っている期間をいうのではなく、最初の返済等の時から返済等が終了する時までの期間をいいます」と定めています。
繰上返済をした場合の扱いについても、当初契約で最初に返済した月から短縮後の最終返済月までが10年以上あれば控除を続けられ、10年未満になった年以後は適用を受けられないと示されています。判定に使うのは繰上返済後の期間です。
一次情報は国税庁 No.1225 住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等と国税庁 繰上返済等をした場合の償還期間、金融機関側の案内は住宅金融支援機構 繰上返済で確認できます。
当初返済期間別|打ち切りラインに当たる繰上げ額
通算期間で判定されるため、打ち切りラインは当初どれだけの期間で借りたかで大きく変わります。借入額3,000万円・金利0.6%をそろえ、当初返済期間だけを変えて5年返済した時点で比べます。
| 当初返済期間 | 残債 | 打ち切りラインの繰上げ額 | 残債に対する割合 | その繰上げで減る利息 | 失う控除 | 差引 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 1,522万円 | 25万円 | 1.6% | 7,612円 | 214,425円 | -206,813円 |
| 15年 | 2,030万円 | 1,017万円 | 50.1% | 467,368円 | 631,832円 | -164,464円 |
| 20年 | 2,283万円 | 1,512万円 | 66.2% | 932,345円 | 905,775円 | +26,570円 |
| 25年 | 2,435万円 | 1,809万円 | 74.3% | 1,402,107円 | 1,070,045円 | +332,062円 |
| 35年 | 2,609万円 | 2,149万円 | 82.4% | 2,355,476円 | 1,257,571円 | +1,097,905円 |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。失う控除は、繰上げしなかった場合に6年目から13年目(返済終了年までが上限)に受け取れる額の合計で、控除率0.7%・借入限度額3,000万円・年収600万円の条件で計算しています。差引は「減る利息-失う控除」です。
当初10年で借りた場合、残り期間は5年しかなく、通算10年を切るのに必要な繰上げ額は250,053円、残債の1.6%です。1回分の元金を少し超える額で打ち切りに当たります。このとき減る利息は7,612円に対し、失う控除は214,425円なので、差引は206,813円のマイナスです。
当初15年でも打ち切りラインは残債の50.1%で、差引は164,464円のマイナスでした。一方、当初20年では差引が26,570円のプラスに転じ、ほぼ拮抗します。当初返済期間が短いほど、打ち切りラインが低く、しかも失う控除の方が大きくなる形です。
経過年数別|打ち切りが起きうるのは最初の10年だけ
通算期間で判定されるということは、経過年数が増えるほど打ち切りは起こりにくくなります。当初20年・3,000万円・金利0.6%で、繰上げ時点の経過年数だけを変えて計算します。
| 経過年数 | 残債 | 残り期間 | 打ち切りラインの繰上げ額 | 残債に対する割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1年 | 2,858万円 | 19年 | 1,476万円 | 51.6% |
| 3年 | 2,573万円 | 17年 | 1,494万円 | 58.1% |
| 5年 | 2,283万円 | 15年 | 1,512万円 | 66.2% |
| 7年 | 1,991万円 | 13年 | 1,530万円 | 76.9% |
| 9年 | 1,694万円 | 11年 | 1,549万円 | 91.4% |
| 10年 | 1,545万円 | 10年 | 全額返済しても起きない | — |
| 12年 | 1,243万円 | 8年 | 全額返済しても起きない | — |
このサイトの計算エンジンによる算出値です。残債の全額を繰上げても通算期間が10年を下回らない行は「全額返済しても起きない」と表示しています。
経過10年の行で打ち切りラインが消えます。初回返済から10年分の返済が終わっていれば、その時点で残債を全額返済しても通算期間は10年以上あるため、期間短縮型でも控除の10年要件には触れません。控除期間が13年の場合、打ち切りを気にする必要があるのは控除期間の前半だけ、という形になります。
逆に経過年数が浅いうちは、打ち切りラインが残債の51.6%から始まります。繰上げに回せる資金が残債に近い規模なら、繰上げ前に通算期間を数えておく意味があります。
返済額軽減型なら返済期間は動かない
10年要件に触れるのは返済期間が縮む期間短縮型です。返済額軽減型は期間を据え置いて毎月の返済額を下げる方式なので、最終回返済日が動かず、通算期間も変わりません。
当初10年・5年経過の条件で、打ち切りラインと同じ250,053円を返済額軽減型で入れると、毎月返済は253,406円へ4,231円下がり、減る利息は3,830円です。期間短縮型の7,612円より利息の減りは小さくなりますが、返済期間は5年のまま変わらないため、控除の10年要件には影響しません。
控除期間が残っていて、かつ通算期間が10年に近い場合は、同じ資金でも方式の選び方で結論が変わります。方式そのものの比較は期間短縮型と返済額軽減型どっち、控除期間中の繰上げ返済の損得一般は控除中の繰上げ返済は損かで扱っています。
判断基準|どの数字を見て決めるか
最初に見る数字は、初回返済日からの経過月数です。これに繰上げ後の残り回数を足した通算が120回以上なら、期間短縮型でも10年要件には触れません。この条件を満たすなら、あとは通常の繰上げ返済と同じ判断でよいことになります。
通算が120回を下回る場合は、減る利息と失う控除を並べます。上の表のとおり、当初返済期間が短いケースでは失う控除の方が大きくなりました。これは残り期間が短く利息の総額が小さい一方、控除は年末残高に比例して残り年数分まとめて効くためです。
なお控除額そのものは年末残高・控除率・所得税額で決まり、年収によって頭打ちになることがあります。年収600万円の条件では所得税204,710円と住民税からの控除上限97,500円の合計が上限となり、本ページの試算ではいずれの年も年末残高側で決まっていました。頭打ちが起きる年収帯では、失う控除はここより小さくなります。
確認手順
第一に、返済予定表か契約書で初回返済日と最終回返済日を確認します。控除の10年要件はこの2つの日付の間隔で判定されるため、残債や残り期間より先にここを押さえます。
第二に、繰上げ返済後の最終回返済日が初回返済日から10年以上先かを数えます。金融機関の繰上げ返済シミュレーションでは、繰上げ後の最終回返済日が表示されることが多いので、その日付で確認できます。
第三に、10年を下回る可能性がある場合は、期間短縮型ではなく返済額軽減型にする、繰上げ額を下げる、控除期間が終わるまで待つという選択肢を、減る利息と失う控除の両方で比べます。実行前に金融機関と税務署に取り扱いを確認してください。
繰上げ返済と控除の10年要件についてよくある質問
残りの返済期間が10年を切ったら控除は受けられなくなりますか
残り期間だけでは判定されません。国税庁は最初の返済の時から返済が終了する時までの期間で判定するとしており、すでに返済した期間も通算に含まれます。本ページの試算では、初回返済から10年分の返済が終わっていれば、残債を全額返済しても要件には触れませんでした。
繰上げ返済をした年の控除は受けられますか
通算の返済期間が10年以上あれば、その年の年末残高に対する控除を受けられます。10年未満になった場合は、その年以後について適用を受けられないと示されています。年末残高が基準になるため、実行時期によっても控除額は変わります。
返済額軽減型でも控除は減りますか
返済期間は変わらないため10年要件には触れませんが、繰上げで年末残高が減る分、控除額は小さくなります。控除額は年末残高に控除率を掛けて計算するため、方式にかかわらず残高が減れば控除も減ります。
まとめ
- 10年要件の起点は初回返済日で、残り期間だけでは判定されない
- 3,000万円・35年・5年経過の打ち切りラインは2,149万円(残債の82.4%)
- 当初10年で借りた場合は250,053円で通算10年を切り、差引は206,813円のマイナス
- 初回返済から10年分の返済が終われば、期間短縮型でも打ち切りは起きない