繰上げ返済300万円の実質効果を方式別に出す

条件は残債2,800万円・残り30年・金利0.6%・元利均等、 毎月返済は85,007円です。住宅ローン控除は2023年入居の省エネ基準適合住宅として 控除率0.7%・借入限度額4,000万円・残存9年、年収600万円で計算しました。 繰上げ返済をしない場合、残存9年ぶんの控除額の合計は149.0万円です。

ここに300万円を繰上げ返済します。削減できる利息から、控除が減った分を差し引いた金額を「実質効果」として並べます。

方式返済条件の変化削減利息控除の減少実質効果
期間短縮型 返済期間が3年5ヶ月縮む 554,928円 −194,776円 360,152円
返済額軽減型 毎月返済が9,108円下がる 278,845円 −159,695円 119,150円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。繰上げ返済の手数料は0円として計算しています。

実質効果は期間短縮型が360,152円、返済額軽減型が119,150円で、差は241,002円です。 注目したいのは内訳です。控除の減少額は期間短縮型194,776円に対して返済額軽減型159,695円で、 控除が多く減るのは期間短縮型の方です。それでも実質効果で期間短縮型が上回るのは、 削減利息の差が276,083円あり、控除減少の差35,081円を大きく超えているためです。

控除が減る理由は「年末残高が下がる」こと

住宅ローン控除は、各年12月31日時点の住宅ローン残高に控除率を掛けて計算します。 繰上げ返済をすると、その分だけ以後の年末残高が下がるため、控除額も下がります。 この基準ケースでは、繰上げ返済の翌年の控除額が21,126円(期間短縮型)、 20,359円(返済額軽減型)小さくなりました。

方式によって差が出るのは、繰上げ返済後の残高の減り方が違うからです。 期間短縮型は毎月返済額を85,007円のまま据え置くため、残高は従来より速く減り続けます。 返済額軽減型は毎月返済額を75,899円へ下げるため、残高の減り方は緩やかになります。 その結果、控除の対象になる年末残高は返済額軽減型の方が高く保たれ、控除の減少は小さくなります。

つまり「控除が減るから損」という理由だけで方式を選ぶと、控除の減少が小さい返済額軽減型が有利に見えます。 しかし利息の削減額は残高を速く減らす方が大きくなるため、両方を足し合わせないと結論は出ません。

繰上げ返済額別の実質効果

繰上げ返済に回す額を100万円・300万円・500万円の3通りで比べます。条件はほかは基準ケースと同じです。

繰上げ額期間短縮型の控除減少期間短縮型の実質効果返済額軽減型の控除減少返済額軽減型の実質効果
100万円 −64,925円 128,330円 −53,229円 39,713円
300万円 −194,776円 360,152円 −159,695円 119,150円
500万円 −324,626円 559,647円 −266,156円 198,569円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。残債・残り期間・金利・控除条件は基準ケースと同一です。

控除の減少は繰上げ額にほぼ比例します。期間短縮型では100万円で64,925円、 500万円で324,626円と、繰上げ額が5倍になると控除の減少もおよそ5倍です。 一方、実質効果は128,330円から559,647円へと、比例よりは緩やかな伸びでした。 控除の減少が繰上げ額に比例して先に積み上がるため、 「少額なら控除への影響を無視できる」とは言えません。金額を変えても、方式間の順位はこの条件では変わりませんでした。

控除の残存年数で実質効果はどう変わるか

控除がまだ長く残っているほど、繰上げ返済で失う控除額は積み上がります。残存年数だけを変えて比べます。

控除の残存年数繰上げなしの控除合計期間短縮型の控除減少期間短縮型の実質効果返済額軽減型の実質効果
1年 190,018円 −21,126円 533,802円 258,486円
3年 551,967円 −63,760円 491,168円 219,706円
5年 889,557円 −106,908円 448,020円 183,536円
9年 1,490,482円 −194,776円 360,152円 119,150円
13年 1,990,396円 −284,776円 270,152円 65,589円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。控除の残存年数以外は基準ケースと同一です。

残存1年なら控除の減少は21,126円で済み、期間短縮型の実質効果は533,802円です。 残存13年では控除の減少が284,776円まで膨らみ、実質効果は270,152円へ下がります。 控除期間が長く残っている段階では、繰上げ返済の効果が控除の減少で目減りする幅が大きい、という関係です。 控除が終わるのを待ってから実行するという選択肢も、同じ軸で比べられます。

残り返済期間が短いほど方式差は縮む

利息の削減額は、繰上げ返済した元金が「あと何年利息を生んでいたか」で決まります。 残り期間が短い段階では削減利息が小さくなるため、控除の減少に食われる割合が上がります。

残債・残り期間期間短縮型の削減利息期間短縮型の実質効果返済額軽減型の削減利息返済額軽減型の実質効果
2,800万円・30年 554,928円 360,152円 278,845円 119,150円
2,400万円・25年 451,446円 256,670円 231,385円 78,096円
2,000万円・20年 351,268円 156,491円 184,324円 40,657円
1,500万円・15年 252,721円 57,942円 137,773円 10,142円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。金利0.6%・繰上げ額300万円・控除残存9年で、残債と残り期間を組み合わせて変えています。

残り15年・残債1,500万円では、期間短縮型の実質効果が57,942円、 返済額軽減型が10,142円まで縮みました。控除が残っている終盤では、 繰上げ返済で浮く利息と失う控除が近い水準になります。実行するかどうかは、 手元資金を減らしてまで取りに行く額かどうかで判断することになります。

「控除率より金利が低ければ損」は成り立つか

控除率0.7%より適用金利が低いなら繰上げ返済は損になる、という説明をよく見かけます。 この基準ケースの金利を0.4%まで下げて確かめます。

適用金利期間短縮型の削減利息期間短縮型の控除減少期間短縮型の実質効果返済額軽減型の実質効果
0.4% 360,082円 −192,827円 167,255円 25,127円
0.6% 554,928円 −194,776円 360,152円 119,150円
1% 976,674円 −198,752円 777,922円 312,557円
1.5% 1,568,892円 −203,863円 1,365,029円 564,513円

このサイトの計算エンジンによる算出値です。残債2,800万円・残り30年・繰上げ額300万円・控除残存9年で金利だけを変えています。

金利0.4%は控除率0.7%を下回りますが、 実質効果は期間短縮型167,255円、返済額軽減型25,127円で、 この条件ではどちらもマイナスにはなりませんでした。理由は期間の差です。 控除が減るのは残存9年ぶんに限られる一方、利息は残り30年にわたって減り続けるためです。

つまり控除率と金利の大小比較だけでは結論が出ません。控除の残存年数と残り返済期間の長さを両方入れて計算する必要があります。 前の表のように残り期間が短い場合は、同じ金利でも実質効果は小さくなります。

期間短縮型を選ぶときの10年要件

期間短縮型には、控除そのものを失う可能性という固有の注意点があります。 国税庁は控除の対象となる住宅ローンの要件として 「償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済されるもの」であることを示しており、 この10年は借入金の債務を負っている期間ではなく、最初の返済の時から返済が終了する時までの期間とされています。

繰上げ返済で返済期間を縮めた場合の判定についても、 国税庁の質疑応答事例「繰上返済等をした場合の償還期間」 で、当初の契約による最初の償還月から短縮後の最終償還月までの期間で判定し、 その期間が10年未満になる年は控除の適用を受けられないとされています。

基準ケースの期間短縮型では、繰上げ返済後の残り期間が26年7ヶ月で、 最低10年の要件を満たしています。ただし返済終盤で大きく期間を縮めると、この要件に触れる可能性があります。 いくらまでなら触れないかは繰上げ返済で控除が切れる額で扱っています。 返済額軽減型は返済期間が変わらないため、この要件が問題になることはありません。

どちらを選ぶかの判断基準

総額だけで見ると、この基準ケースでは期間短縮型が241,002円上回りました。 ただし返済額軽減型には、毎月の返済額が9,108円下がるという別の効果があります。 収入の変動が心配な時期や、教育費と返済が重なる時期には、この毎月の余裕の方が目的に合う場合があります。

期間短縮型は完済が3年5ヶ月早まります。 定年後に残債を残したくない場合は、この効果が判断材料になります。 一方で毎月返済額は85,007円のまま変わらないため、家計の月々の余裕は増えません。

控除の残存年数が長い段階では、表のとおり実質効果が目減りします。 手元資金に余裕がない場合は、控除が終わるまで待って資金を積んでおく選択肢と、 いま実行する選択肢を同じ軸で比べると判断しやすくなります。 期間短縮型と返済額軽減型どっちでは控除を含めない利息だけの比較を、 控除中の繰上げ返済は損かでは実行時期の論点を扱っています。

確認手順

まず返済予定表で、現在の残債、残り回数、適用金利、毎月返済額を確認します。 次に、年末調整や確定申告の書類で控除の残存年数と控除率、借入限度額を確認します。 住宅ローン控除はいくら戻るのかに、控除額が所得税額と住民税の上限で頭打ちになる仕組みをまとめています。

続いて、繰上げ返済に回せる金額を決めます。生活防衛資金や教育費の予定を取り崩さずに出せる額が上限です。 そのうえで、期間短縮型と返済額軽減型の両方で試算し、削減利息と控除の減少を並べて比べます。

最後に金融機関へ、繰上げ返済の最低金額、手数料、受付の締切日、方式の選択可否を確認します。 手数料がかかる場合は、実質効果から差し引いて判断します。 控除の適用関係について個別の判断が必要な場合は、税務署や税理士に確認してください。

繰上げ返済と控除についてよくある質問

繰上げ返済をすると控除はいくら減りますか

控除は各年12月31日の残高に控除率を掛けて計算するため、繰上げ返済した分だけ年末残高が下がり、控除額も下がります。 基準ケースでは翌年の控除額が21,126円(期間短縮型)小さくなり、残存9年の合計で194,776円の減少でした。 減少額は繰上げ額、控除率、残存年数、控除の頭打ちの有無で変わります。

控除が減るぶんを考えると、繰上げ返済は待った方がよいのでしょうか

この基準ケースでは、控除の減少を差し引いても実質効果は期間短縮型360,152円、返済額軽減型119,150円のプラスでした。 ただし残り返済期間が短い場合や控除の残存年数が長い場合は実質効果が縮みます。 手元資金を減らす効果も含めて、自分の条件で計算してから決めることになります。

返済額軽減型なら控除は減らないのですか

減ります。年末残高は繰上げ返済した分だけ下がるためです。 基準ケースでは返済額軽減型でも残存9年で159,695円減りました。 期間短縮型との差は35,081円にとどまり、方式を変えても控除の減少そのものをなくすことはできません。

まとめ

  • 基準ケースの実質効果は期間短縮型360,152円、返済額軽減型119,150円
  • 控除が多く減るのは期間短縮型(194,776円)だが、削減利息の差276,083円の方が大きい
  • 控除の残存年数が長いほど実質効果は小さくなる(残存13年で270,152円)
  • 期間短縮型は返済期間が10年未満になる年は控除の対象外になるため、残り期間を確認する

2026年8月時点の制度基準の制度値で計算しています。控除率・限度額・要件は改正で変わるため、実行前に最新の取扱いを確認してください。